どんな治療法なの?
抗がん剤の量が少なくて済み、抗がん剤による副作用が少ない、新しいがん治療です。麻酔は必要ありません。抗がん剤療法と、レーザー治療の「良いとこ取り」した治療法です。
極々小さいナノメートルサイズの「リポソーム」に、通常の1/10の濃度の抗がん剤を入れて、点滴で投与します。すると、がんの場所にだけリポソームが集まり、がんにだけ抗がん剤が作用する、という治療法です。また、レーザーを腫瘍に照射することでがん縮小効果や痛みをやわらげる効果があるとともに、リポソームがより効果を発揮します。
リポソームってなに?
肉眼には見えないほど小さな気泡のようなもので、細胞膜の主要成分であるリン脂質でできた球体です。大きさはナノメートル(100万分の1ミリメートル)サイズで、カプセルのように中に薬剤を入れられます。
この治療法では、複数の抗がん剤をリポソームに内包します。抗がん剤を含まずに抗炎症剤を封入することも可能です。がん細胞に対してピンポイントで作用するため、通常の抗がん剤治療で使われる量の1/10で済み、抗がん剤による副作用が抑えられます。次に説明するEPR効果により、長期間腫瘍にリポソームが留まり、長く効果を発揮します。
何故リポソームは腫瘍だけに効くの?
リポソームを静脈点滴で投与すると、全身の血管を巡ってから腫瘍細胞に蓄積されていきます。腫瘍細胞につながる血管の壁は、通常の血管に比べて不均一で、通常血管壁から入り込まない大きさの物質が、腫瘍には入り込みやすくなっています。これをEPR効果(Enhanced permeation and retention effect)と言います。
リポソームの大きさを腫瘍に入り込みやすい大きさに調整し、腫瘍だけに長期間抗がん剤が作用する、といった治療方法です。
リポソームって、理科に出てくるリボソームのこと?
違うものです。
リボソーム(Ribosome・ライボソーム)は、すべての細胞の中に含まれる小顆粒です。細胞の中で、タンパク質を合成する役割を持っています。大きさは20nm(ナノメートル)ほどです。
一方リポソーム(Liposome)は、上記で説明したとおりリン脂質二重構造からなる球体のカプセル状の粒のことです。大きさは作成方法によって異なり、小さいものでは50nmから大きいもので500nm以上にもなります。用途に応じて大きさを調整します。リポソームの中にはいろいろな薬剤を内包することができ、様々な医療技術に応用されています。
ICGってなに?
ICGとは、シンドシアニングリーンという緑色の色素の略称です。ICGはいくつかの特殊な効果を持つ色素で、様々な医療現場で活用されています。その特長のひとつに「レーザー光を吸収しやすい」という性質があります。腫瘍にICGを注射し、レーザーを照射すると、腫瘍が苦手とする熱が発せられるとともに、一重項酸素が発生し、腫瘍細胞を死滅する効果がわかっています。
今回の治療で用いるリポソームには、特殊な技術でICG分子を結びつけています。通常ICGを点滴で投与すると肝臓で代謝され、数日で便から排出されてしまいます。リポソームにICGを結びつけることにより、ICGで修飾されたリポソーム(ICG-Lip)は3週間腫瘍細胞の中に留まり、800nmの波長のレーザーを、できれば毎日、最低週3回当てることで、リポソームに内包された抗がん剤と、ICGとレーザー光との反応により、相乗効果で効果的に腫瘍をやっつけることができます。
治療にどのくらい日数がかかるの?
現在は、3週間を1クールとして、深在性の腫瘍なら3週間に1回、表在性の腫瘍なら週に1回(1クールで3回)、静脈点滴します。表在性の腫瘍なら、投与するICG-Lipの一部を腫瘍に直接局所注射することもあります。
点滴で投与後は、毎日ないし週3回、腫瘍に向けてレーザー照射をします。レーザー光は直進しますが、体組織に照射すると奥の方まで拡散する性質を持つので、肺や肝臓など体の内部にある患部にも作用します。
1クールごと終了後に獣医が効果測定を行い、次のクールを始めるかどうか判断します。平均して4,5クールの治療を繰り返すと効果が明らかに見えてきます。
研究段階のため、日々新しいことが発見されています。現在では、ICG修飾リポソーム治療は、免疫力と深い関わりがあるということがわかっています。遺伝子操作により免疫力が失われたマウス(ヌードマウス)にがんを移植し、ICG-LIPOを投与しレーザー治療を行ったところ、腫瘍の縮小は見られませんでした。一方、通常の免疫力をもったマウスにICG-LIPOを投与した場合は、縮小が見られたとのことです。
つまり、ICG-LIPOは自己の免疫力を増強させることで、がんを縮小する効果が得られている、ということです。患者さんの免疫力なくしては治療の効果が得にくいということです。
当院においては免疫賦活として丸山ワクチン療法を併用しております。
どんな腫瘍に効くの?
まだ研究段階ではありますが、下記の腫瘍によい成績を収めています。
- 扁平上皮癌
- 肥満細胞腫
- 移行上皮癌
- 鼻腔内腫瘍(リンパ腫)
- 肝細胞癌
上に記載のない腫瘍についても効果が期待できるものはありますし、また研究成果が少なく効果があるデータが十分でないものもあります。適応症例かどうかについては、当院までお問い合わせください。
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